監修:歯科医師 濱本 靖也(HALO DENTAL CLINIC 院長)
歯医者で根管治療を受けているときに聞こえる、あの「ピピピ」という電子音。
あれは歯の根の長さを測っている装置の音です。異常や失敗を知らせる警告音ではありません。
顔にタオルをかけられ、何が起きているか見えない状態で電子音だけが繰り返し鳴ると、不安になるのは当然のことです。
この記事では、音の正体だけでなく、その音が鳴る位置は歯科医師が設定できること、そして「器具が根を突き抜けないか」「何度も測り直すのは失敗ではないか」という、多くの方が実際に検索されている不安にもお答えします。
この記事でわかること
- 音が鳴る仕組みと、リズムが変わる理由
- 音が鳴る位置は歯科医師が設定できるということ
- 「器具が突き抜けないか」「測り直しが多いのは失敗か」への答え
「ピピピ」の正体は、歯の根の長さを測る装置の音
この見出しの結論:音の発生源は「歯科用根管長測定器」という、国の認証を受けた医療機器です。

根管治療(歯の根の治療)では、歯の内部にある細い管の中を掃除します。この管を根管(こんかん)といいます。
掃除をするには、入口から根の先までの長さが何ミリなのかを知らなければなりません。この長さを測る装置が、音の発生源です。
装置の正式な名前は「歯科用根管長測定器」
この装置は、医療機器としての正式な区分を持っています。
例として、株式会社モリタ製作所の「ルートZX mini」という機種の製品情報を見ると、次のように記載されています。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 一般的名称 | 歯科用根管長測定器 |
| 医療機器分類 | 管理医療機器(クラスⅡ)/特定保守管理医療機器 |
| 医療機器認証番号 | 22000BZX01653000 |
| 製造販売 | 株式会社モリタ製作所 |
出典:ルートZX mini 特長(株式会社モリタ製作所)
つまりこの装置は、国の認証を受けた医療機器です。
認証番号が公表されているので、気になる方はご自身で確認することもできます。
なお、根管長測定器を作っているメーカーは複数あり、ここで挙げたのはあくまで一例です。
どのメーカーの機種が優れている、という話ではありません。
現場では「EMR」と略して呼ばれることもあります。
これは Electronic Measuring of Root canal length(電気的根管長測定)の頭文字です。
「ピー」「ピピ」「ピピピ」はどれも同じ装置の音
同じ装置の音でも、聞こえ方は人によって違います。
「ピーピー鳴っていた」という方もいれば、「ピピッ、ピピッだった」という方もいます。
これは機種によって音の出し方が異なるためです。
長く伸びる音を出すものもあれば、短く区切った音を出すものもあります。
どちらであっても、行われていることは同じです。
多くの機種は、器具の先が目標の位置に近づくにつれて音の間隔が短くなり、到達すると続けざまに鳴るという設計になっています。
「だんだん速くなってきた」と感じたのは、そのためです。
ただし、どのタイミングでどう鳴るかは機種と設定によって異なります。
「この鳴り方が正しい」という一つの型があるわけではありません。
なぜ音が鳴るのか|歯の中の「電気の通りにくさ」を測っている
この見出しの結論:口の端の金具と根の中の器具のあいだの電気の通りにくさで、器具の位置が分かります。

口角にかける金具と、根管に入れる器具
治療のとき、口の端に金属のフックのようなものをかけられた記憶はないでしょうか。
あれは対極(たいきょく)といい、電気の片方の端子です。
もう片方の端子は、根管の中に入れる細い器具です。
この器具をファイルまたはリーマーと呼びます。
針のように細く、先端がやすりのようになっていて、根管の中を削って形を整えるために使います。
この2つの間に、ごく弱い電気を流します。
器具が根の先に近づくほど電気が通りやすくなる
歯の根の先には根尖孔(こんせんこう)という小さな穴があり、そこで歯の内部と、歯を支える組織がつながっています。
ファイルの先端がこの根尖孔に近づくほど、電気の通りにくさ(電気抵抗)が変化します。
装置はこの変化を読み取り、「今、器具の先はこのあたりにある」という位置を計算しています。
音のリズムが変わるのは、この位置の変化を耳で分かるようにしているためです。
歯科医師は口の中を見ながら作業しているので、画面をずっと見ているわけにはいきません。
そこで音が使われています。
先ほどのメーカーの製品情報にも、「またファイルの位置はアラーム音でも判別できます」と記載されています。
根管に電気が流れると聞くと不安ですが
「電気」という言葉に反応して不安になる方は少なくありません。
流れているのはごく弱い電流です。
また、医療機器としての区分の中に「電撃に対する保護」の規定があり、先ほどの機種では「内部電源機器/BF形装着部」と定められています。
これは、人体に触れる部分の電気的な安全性について基準が設けられているということです。
ただし、体内に心臓ペースメーカーなどの電気機器を入れている方は、事前に歯科医師へお伝えください。
装置の取扱説明書に注意事項が定められている場合があります。
なお、先ほどの砂田氏の総説によれば、初期の機器は測定に使う電流が大きく、神経が残っている状態では痛みを感じることがありました。
そのため、流れる電流を大幅に小さくした機器が開発され、その問題は解消されたと記されています。
現在使われている機器は、この改良を経たものです。
音が鳴る位置は、歯科医師が設定できます
この見出しの結論:装置が測っているのは「根の長さ」ではなく「作業長」。
根の先ぴったりではありません。
ここが、多くの解説記事で触れられていない点です。
「ピピピと鳴った=器具が根の先に到達した」と説明されることがありますが、厳密にはそうとは限りません。
先ほどのメーカーの製品情報には、次のように書かれています。
点滅表示バー 根管長測定の目安となる位置を「2」~「APEX」の範囲で設定できます。
出典:ルートZX mini 特長(株式会社モリタ製作所)
「APEX」とは根の先端のことです。
つまりこの装置では、根の先端そのものではなく、そこから少し手前の位置を「目安」として設定できるということです。
開発した本人が「根の長さは測っていない」と書いています
この技術を開発したのは、東京医科歯科大学の砂田今男氏です。
ご本人が学会誌に書いた総説に、次の一文があります。
当初から電気的根管長測定という言葉を用いてきたが, 実際には根管長を測定しているわけではなく, 根管治療の際の作業長を測定していることになる。
出典:砂田今男「歯内治療におけるME機器開発の歴史」口腔病学会雑誌 1990;57(2):273-
「根管長測定器」という名前がついていますが、実際に測っているのは作業長です。
根管治療で根の先端ぴったりを狙わない理由
根管の掃除は、根の先端ぴったりまで行えばよいというものではありません。
器具を根の先端より外に出してしまうと、歯を支えている組織を傷つけることになります。
かといって手前で止めすぎれば、汚れが残ります。
そのため歯科医師は、根の先端から一定の距離だけ手前を目標地点と決めて作業します。
この目標までの長さを作業長(さぎょうちょう)といいます。
装置の目安位置を設定できるのは、この作業長の考え方に対応するためです。
同じ総説には、その目標をどこに置くべきかについても記されています。
砂田氏によれば、根管の処置は、解剖学的な根の先端よりも0.5〜1.0mmほど手前にある「根尖狭窄部(こんせんきょうさくぶ)」まで行うのがよいとされてきたとのことです。
さらに、開発の途上で測定器の基準値そのものが変更された経緯も記されています。
当初はX線写真上で根の先端と器具の先が一致する位置を目標にしていましたが、それでは歯を支える組織を傷つけることになると分かったため、基準値が改められました。
根尖狭窄部でのメーター指示値は40から38へと変更された
出典:砂田今男「歯内治療におけるME機器開発の歴史」口腔病学会雑誌 1990;57(2):273-
「根の先ぴったりではなく、少し手前を狙う」という考え方は、開発の初期からの見直しを経て定まったものです。
歯科医師によって音の鳴り方が違うのは正常です
歯科医院を変えた方が「前の先生のときと音の鳴り方が違う」と感じることがあります。
これは機種の違いと、設定の違いによるものです。
どちらかが間違っているという話ではありません。
あの音は、痛みや失敗の合図ではありません
この見出しの結論:音は位置を知らせているだけで、痛みや異常とは関係ありません。
「ピピピ 痛い」という言葉で検索されている方が実際にいらっしゃいます。
音と痛みを結びつけて考えてしまうのは自然なことです。
音と痛みは別のものです
音は、装置が位置を知らせているだけです。
音が鳴ったから痛くなる、痛いところに近づいたから鳴る、という関係ではありません。
とはいえ、治療中に痛みを感じることは実際にあります。
そのときは音とは無関係に、手を挙げるなどしてその場で伝えてください。
我慢する必要はありません。
麻酔を追加するなどの対応ができます。
「ガリガリ」「キーン」は別の器具の音
診療室ではいくつもの音が同時に鳴っています。
| 聞こえる音 | 出しているもの |
|---|---|
| ピピピ/ピー | 歯科用根管長測定器(根の長さの測定) |
| キーン(高く鋭い) | 歯を削る器具(タービン) |
| ウィーン(低め) | 歯を削る器具(エンジン) |
| シューッ | 唾液や水を吸う管(バキューム) |
| ジー/シャリシャリ | 超音波で根管の中を洗う器具 |
治療中に聞こえた音を思い出すとき、この表と照らし合わせてみてください。
なお、治療後に痛みが出た場合の見通しについては、別の記事で詳しく扱います。
根管治療で器具が根を突き抜けないか、という不安について
この見出しの結論:突き抜けを防ぐために測っています。
起こりうることは学会も想定し、説明を求めています。
検索されている言葉の中に「リーマー 突き抜け」があります。
細い器具を根の中に入れられていると想像したとき、突き抜けないのかと不安になるのは、むしろ自然な発想です。
この不安には、正面からお答えします。
測っているのは、まさに「突き抜けないため」です
順番が逆に感じられるかもしれませんが、根の長さを測っているのは、器具を出しすぎないためです。
長さが分からないまま器具を進めれば、どこまで入っているのか分かりません。
測定器は「今この位置にいる」を教えてくれます。
あの音は、突き抜けを防ぐための仕組みが働いている音だと考えてください。
根管治療中の器具の破折は学会も起こりうるものとしています
日本歯内療法学会の「歯内療法ガイドライン」には、器具の破折について次のように定められています。
根管内器具は時として破折することもある。
この可能性を認識し、術者はステンレススチールやニッケルチタンなどのような生体に為害性の少ない材料で作られた根管内器具を滅菌して使わなければならない。
出典:歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会)
同じガイドラインは、こう続けています。
患者には器具の破折事故について説明することが望ましい。
この時の説明を患者のカルテに記載しておかなければならない。
出典:歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会)
つまりこうしたことは「起こりうること」として想定されており、起きた場合には患者への説明が求められているということです。
隠すべきことではなく、説明されるべきことです。
もし治療中に何か起きていたなら、あなたにはそれを説明してもらう立場があります。
治療中に気になったら、その場で聞いていい
「うーん」と言われた、いつもより時間がかかった、そういう場面に気づいたときは、その日のうちに聞いてしまうのがいちばん確実です。
次回まで持ち越すと、記憶があいまいになり、聞くきっかけも失われます。
何度も測り直すのは、失敗ではありません
この見出しの結論:根管の本数だけ測ります。
水分で数値が乱れたときも測り直します。

1回の治療で音が何度も鳴ると、「うまくいっていないのでは」と感じます。
しかし、測り直しには具体的な理由があります。
理由1:根管は1本とは限りません
前歯は1本の根管であることが多いのですが、奥歯は複数の根管を持ちます。
3本、4本、あるいはそれ以上のこともあります。
根管が4本あれば、4回測ります。
音が何度も鳴るのは、それだけの数を扱っているからです。
理由2:水分の状態で測定が乱れることがあります
この装置は電気の通りにくさを利用しているため、根管の中や周囲の水分の状態に影響されます。
虫歯が大きく歯に穴が開いている場合、唾液や出血がまわりこんで電気が別の経路を通ってしまい、正確な数値が出ないことがあります。
この状態を漏電といいます。
その場合、歯科医師はいったん止めて、水分を除いてから測り直します。
測り直しは、数値をうのみにしなかった結果です。
理由3:測定を安定させるためラバーダムが使われます
ラバーダム防湿という方法があります。
治療する歯だけをゴムのシートから出し、唾液が入らないようにするやり方です。
日本歯内療法学会のガイドラインは、根管治療についてこう定めています。
全ての根管の清掃・形成・消毒・閉鎖は、常にラバーダム防湿下で無菌的処置下で行われるべきである。
出典:歯内療法ガイドライン(日本歯内療法学会)
ラバーダムは細菌の侵入を防ぐためのものですが、結果として測定の精度にもつながります。
測定器を使わない歯科医院はあるのか
この見出しの結論:保険診療で広く行われている処置です。
X線写真と併用するのが基本です。
「EMR 使わない」という言葉で検索されている方もいます。
電気的根管長測定は、日本の保険診療の中で行われている一般的な処置です。
特別な自由診療でしか受けられないものではありません。
ただし、根の長さの確認方法は測定器だけではありません。
デンタルX線写真(歯の部分を写す小さなレントゲン)も併用されます。
器具を入れた状態で撮影し、位置を目で確認する方法です。
測定器とX線写真は、どちらか一方で足りるものではなく、互いに補い合う関係にあります。
測定器の数値が水分の影響を受けることがある一方、X線写真は平面の像なので奥行きが分かりにくいという性質があります。
音が聞こえなかったからといって、その医院が手を抜いているとは限りません。
撮影で確認している場合もあります。
気になるようであれば、次の受診時に「根の長さはどうやって確認していますか」と聞いてみてください。
治療を受ける側が確認できること
この見出しの結論:見えない場所を扱う治療だからこそ、聞くことは遠慮ではなく必要です。
「先生に聞くのは気が引ける」という声をよく耳にします。
ただ、根管治療は目に見えない場所を扱う治療なので、説明を受けなければ患者側からは何も分かりません。
聞くことは遠慮ではなく、必要なことです。
そのまま使える聞き方を挙げます。
| 質問 | なぜ聞く価値があるか |
|---|---|
| 「今日はどこまで進みましたか」 | 治療の全体像と現在地が分かり、あと何回かの見通しが立つ |
| 「この歯は根管が何本ありますか」 | 本数が多いほど時間がかかる理由が分かる。音が何度も鳴った理由もここで解ける |
| 「ラバーダムは使っていますか」 | 唾液の侵入を防ぐ方法をとっているかが分かる |
| 「根の長さはどうやって確認していますか」 | 測定器・X線写真のどちらを使っているかが分かる |
| 「今日の治療で気になったことはありましたか」 | 治療中に生じたことがあれば、この質問で説明されやすくなる |
いきなり別の医院へ相談する前に、まずは担当の歯科医師に聞いてみてください。
その場で解ける疑問がほとんどです。
よくある質問
Q1. ピピピという音が鳴ると、根の先に届いたということですか?
必ずしもそうとは限りません。
装置には目安となる位置を設定する機能があり、根の先端そのものではなく、少し手前を目標としている場合があります。
いずれにしても、器具の位置が把握できているという合図です。
Q2. 音が鳴っているとき、痛みを感じるのは異常ですか?
音と痛みは直接関係しません。
ただし痛みを感じた場合は、我慢せずその場でお伝えください。
麻酔の追加など、対応できることがあります。
Q3. 測定器の電流で感電することはありませんか?
流れるのはごく弱い電流です。
医療機器としての電気的な安全基準も定められています。
ただし心臓ペースメーカーなどを使用している方は、事前に歯科医師へお伝えください。
Q4. 1回の治療で何度も音が鳴るのはなぜですか?
根管が複数ある場合、その本数だけ測定するためです。
奥歯では3〜4本以上あることもあります。
また、唾液や出血で数値が乱れたときに測り直すこともあります。
Q5. レントゲンだけで根の長さは測れないのですか?
X線写真でもおおよその長さは分かりますが、平面の像であるため奥行きの判断には限界があります。
測定器と併用することで、より確実に位置を把握できます。
まとめ
治療中に聞こえる「ピピピ」は、歯の根の長さを測る装置が出している音です。
異常や失敗を知らせる警告音ではありません。
音が鳴る位置は歯科医師が設定でき、根管の本数だけ測定するため、1回の治療で何度も鳴ることがあります。
測り直しは、数値をそのまま信用しなかった結果であることが多いものです。
それでも気になることがあれば、次の受診のときに担当の歯科医師へ聞いてみてください。
目に見えない場所を扱う治療だからこそ、聞くことに遠慮はいりません。
当院の根管治療の考え方については精密根管治療、神経を残す治療については歯をできるだけ長く残す治療のページに記載しています。
監修者情報

濱本 靖也(はまもと やすなり)
HALO DENTAL CLINIC 院長/歯科医師
- 平成25年 朝日大学歯学部 卒業
- 大阪市内の歯科医院にて勤務
- 令和2年 HALO DENTAL CLINIC 開院
- 研修歴:歯周組織再生療法エムドゲイン認定コース修了/3i Implant認定コース修了/Nobel Biocare Implant 認定コース修了/SPI Implant 認定コース修了/Invisalign go 認定コース修了
所属学会:日本歯周病学会/日本歯内療法学会/日本口腔インプラント学会/日本臨床歯科医学会/大阪府歯科医師会
HALO DENTAL CLINIC(大阪市中央区道修町4-7-11 D-HB 3F/淀屋橋駅13番出口 徒歩3分/肥後橋駅6番出口 徒歩4分)
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状や治療内容は一人ひとり異なります。ご自身の状態については、必ず担当の歯科医師にご相談ください。
